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親友の距離感って僕には面倒臭い。

38  技名だっせぇ!

このまま家の者達だけで使うのは勿体無い気もするが、知らない人が出入りするもの抵抗があ
る。どうしたものか・・・

 「それにしても、傍にいながら忍者は何をしていたのだか・・・」

 「彼らは外敵からの護衛が仕事で、内面のケアはまた別なのではなくて?」

 「お、マリーテア嬢もいたんか! ・・・てかニンジャってなんや?」

 温泉に浸かりながら男子湯と女性湯に分かれたモーズリスト家の使用人達が楽しそうに会話
していた。

 「いつも俺達の近くを飛び回ってるぜ! まっ 見えないだろうけどなぁ」

 「・・・? なんやそれ神林、妖精かなんかか?」

 ふぉっふぉっふぉと老婆が笑い、ジェノはザバッと立ち上がった。

 「妖精! やっぱりいるよね」

 「ふぉ!? ・・・ジェノちゃん、居たのかい?」

 振り向いたメイド長の老婆の声に、壁を挟んだ向こうでガタガタと何かが崩れた音と、慌て
たライヴィの声が響く。

 「えっ、坊そこにいたのか?いつから!?」

 「え・・・最初から」

 はぁ!? と驚く男に「方言取れてますよ」と冷静なつっこみを送るファストと、「お静か
になさって!」と注意するマリーテア。
 ・・・僕が「ここ」にいないと思ってたのか。
 だから本人を前に『ジェノの話』が出来たのかと、納得がいった。

 「てか、オババ様は一緒に入ってきたんだから僕がいること知ってるでしょ」

 「ふぉっ! こんな歳になると何も覚えてなくてねぇ、髪洗ってる間にすっかり忘れたよぉ」

 「しっかりしてくれやー」と水音を立てるライヴィに謝罪しながら身体を洗い終えた老婆は
ゆっくりと湯に浸かり、目を閉じて歌いだす。
 うお、オペラ!?オババ様凄い上手い、何者だよ!
 おのおのが色々な音を立てている様子を想像し楽しんでいたジェノに、スイーと近づいてき
たマリーテアは、優しくジェノの濡れた前髪を掻き上げた。

 「ジェノ坊ちゃん・・・熱が下がって良かったですね。この一週間、心配でたまりませんで
した。我々の不注意です」

 申し訳ありませんと謝る彼女に笑顔で首を振る。
 元々僕が精神的に強くないだけだ。
 それに、ここ一週間ゆっくりしたおかげで大分心にゆとりが出来た。

 今ならあのカルシェンツのスキンシップ攻撃を軽やかに避けられる気がする。
 待ってろよ美少年、温泉に入って力を蓄えたNewジェノを見せてやるぜ!
 女湯の巨大な湯船の中。
 正面の富士山の絵を眺め、少女は熱く闘志を燃やした。



 カッ コッ!
 跳ねる黄色い球を目で追いながら、仁王立ちしたメロスの説明をジェノは受ける。

 「いいか? こうして腰に手を当てて、胸を反らせて一気に―― 飲む!」

 瓶に入った牛乳を一気飲みするメロスの後ろでは、カンバヤシ対オババ様の対決が行なわれ
ていた。
 いいなぁ、僕も卓球やってみたい!

 「くらえ― トルネードスピンッ!」 
 そう叫びながら放たれたカンバヤシの打球は、コンッと軽い音と共にあっさり返される。

 「――っ! ボールが跳ねない、だと!?」

 バウンドするはずの球は、台に当たるとシュルシュルと回転し、静かに止まった。

 「秘儀・・・『シュルっと転がって、跳ねないよボール!』じゃ」

 「技名だっせぇ! でも凄いやんかオババ様、どうやったん?」

 崩れ落ちる神林にドヤ顔のオババ様。伝授してくれとはしゃぐ審判役のライヴィ。 
 『のんびりスペース』に造られた卓球コーナーは賑やかで楽しそうだ。

 激しさを増す卓球対決に早く混ざりたくてソワソワするジェノだが、異様に銭湯・温泉マナー
に厳しいメロスはなかなか解放してくれない。

 「風呂上がりの最初の一杯は絶対こうしなくちゃいけないんだぞー。ほら、ジェノもやって
みな」

僕もトルネードスピン打ってみたいのに・・・むう。
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