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親友の距離感って僕には面倒臭い。

27  目を掛けてもらえればっ!

 持ち主の方ごめんなさい。いたら後で弁償します!
 あまりに都合のいい出来事に、ジェノは訝しみながらもあまり深く考えない。
 
 ・・・おそらく妖精さんの仕業かな。
 いままでも困ったことがあると、今回の様な事がジェノの周りではよく起こった。どこから
ともなく助けてくれる姿なき存在を、ジェノは『妖精さん』と呼んでいる。
 これをメロスに話したら腹を抱えて大爆笑された。

 なんだよ、メロスは夢がないなぁ 本当なんだぞ。きっといつも僕のことを見守ってくれて
いるんだ!
 妖精さんのおかげでだいぶ呼吸が楽になってきた・・・昔は屋敷全体を巻き込んで、使用人
を大慌てさせていた過呼吸だが、今では独りで対処出来る様になった。
 でも、やっぱり苦しいから慣れないなぁ。
 深呼吸を繰り返しながらジェノは、少年に打ち明けるのは先延ばしにしようと決め一人頷く。

 そろそろ戻ろうかな、カルシェンツのやつ心配するかもしれないし。

 「きみぃ、ちょっといいかね」

 椅子から立ち上がろうとするのと、離れたところからジェノに声がかかるのは、ほぼ同時だっ
た。
 
 「確か、モーズリスト君だったかな?」

 あ・・・さっきの太った人――

 「んんっ、殿下のことで、お互いうまい話があるんだがねぇ」

 男は肉付きのいい照かった顔にニヤニヤとした笑みを浮かべ、ジェノに近寄ってくる。

 「私から話を持ちかけ誘ってやるなんてなかなかないんだぞ?君は運がいい」

 うっわぁ、面倒くさそー
 まだ話は解らないが、その上からの態度や口元を厭らしく釣り上げた歪んだ笑みに嫌な予感
が過ぎり、ジェノは内心で盛大な溜め息を付いた。

 「一人かね、殿下はどうしたんだ?」

 「え、あぁテラスの方に・・・僕はト、いえお手洗いに」

 ふむ。と顎を撫でる男。
 この人カルシェンツに相手にされなかった太ったおじさんだよな・・・その後ろから歩いて
くる痩せた人は誰だろう?
 ステッキを持った60歳前後のご老人。ピシッと伸びた背筋が美しい紳士的な佇まいだ。

 ジェノの疑問に答えるように一歩前に出て「美術園へようこそ。総支配人のクルドールです」
と自己紹介してくれた。太った方は絵画施設の支配人だと紹介される。

 「顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」

 「あ、はい。今休んだので大丈夫です」

 「そうですか、何かありましたら直ぐお申し付け下さい」

 丁寧な口調でクルドールさんは、椅子に座るよう促してくれる。
 少しふらふらしていたから助かるなぁ。

 「お飲み物でもお持ちしましょうか?」

 「えっと・・・」

 「そんなことより、殿下は何か仰っていたか!? この美術館は素晴らしいとか、また来た
いとか!」

 そんなことって・・・総支配人の男性との会話に、強引に割って入ってきた太った男に眉を
顰める。
 男の隣でクルドールさんも窘めるような視線を向けているが、鼻息の荒い男はそれに気が付
かず、矢継ぎ早にジェノに質問してきた。内容は全てカルシェンツのことで、彼にどう思われ
ているかが気がかりらしい・・・

 「私が案内して差し上げられれば、よりこの美術園を気に入っていただけるのに。ひいては
私も今後、目を掛けてもらえればっ!」 

 目をギラつかせて捲し立てる男に一歩後ろにさがりたい気持ちになるが、座っているため適
わない。

 「君、殿下に掛け合ってくれんか。この機を逃す手はない・・・上手く私が取り入れるよう
に進言してくれ!」

 「え・・・いや、あの」

 なんで僕に振るんだ! やめてくれっ。
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